少年時代

男はつらいよ』が大好きである。
放浪の寅次郎が柴又に帰ってくるたびに騒ぎになる。
どんなに喧嘩しても寅には帰る家は柴又しか無い。
ところがそこは育った家ではあるがおいちゃんおばちゃんの家である。
私の親は健在であるが、子供の頃から世話になったおいちゃんおばちゃんがいる。
いた、という方が正確だろうか。
おいちゃんもおばちゃんも死んでしまった。
信州の小さな城下町にその家はあった。
ものごころついたときから、春夏冬の長期休みの大半はその家で過ごしていた。
年の近い従兄弟が遊んでくれた。
その家は八百屋だった。だからおいちゃんもおばちゃんもいつも家にいた。
適当な時間になるとおいちゃんは「行くぞ」と私を呼ぶ。
毎日のお得意さんまわりと配達に連れていってもらった。
配達のトラックの窓から浅間山八ヶ岳北アルプスが見えていた。
時間があるとおいちゃんは遠回りしてくれて千曲川で水遊びさせてくれた。
私の子供の頃の夏休みや冬休みの思い出はいつも信州の山とおいちゃんおばちゃんとの思い出だ。
今はその八百屋も取り壊され更地になり、おいちゃんおばちゃんもいない。
たまに見る夢で少年時代の信州を楽しんでいる。
おばちゃんが大きい鍋でつくってくれた野菜たっぷりのほうとう鍋をもう一度食べたい。
ちなみに偏食だった私は野菜を残すな、とよく叱られたものだった。
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