優しいおふくろ

老いた母が11月中旬入院手術した。
2週間の入院。
通勤路に近い病院だったので、帰り道に何度かよった。
ちょうど18時の夕食時。
母は多くの人に「病院食はまずい」という。
「いつもほとんど手を付けずに残している」のだそうだ。
手術直後はそれなりに食欲が無かったのだろう。
しかしながら、術後の熱も翌日には収まり、縫合の痛みも翌日にはほとんどなくなったと言う。
それどころか、足の手術だったが翌日にはリハビリで立ち上がったそうだ。
順調な回復。
と、いう話を聞いていると夕食が運ばれてきた。
白身魚の甘酢、おひたし、だし巻き卵などなど試食すると美味しい。
病院食恐るべしである。
おふくろは「こんなまずいもの食べたくない、お前が食べていい」と私に差し出す。
どうせ残すのなら、とありがたく美味しくいただく。
病人の残り物をいただくなど、身内の中でも息子だけだろうね。
そんなやり取りが何回かあったのだけど
入院1週間になると、「お前に半分あげる」という言い方になる。
ご飯やおかずを半分に分けて、私に差し出す。
さすがの私も「美味しいからおふくろが食べたらいい」と言うのだけど
「病院の食事は薄味で美味しくない」と言いつつ半分はパクパク食べている。
いよいよ、入院も最後の方になると、「もうすぐ夕食だ」となったところで
「今日はご苦労さん、もう帰ってもいいよ」と言う。
私がいると「まずいから」と残さなければならないらしい。
私は「はいそうですか、お大事に」と、とっとと帰宅する。
どうもああいう性格の人は「病院食はまずい」と自分の美食家を自慢したいらしい。
最初から「案外美味しい」といっていれば変な意地をはらずに済むのだけどね。